飯田橋法律事務所では、株式会社の取締役に就任したものの様々なご事情により辞任をしたい、取締役を辞任したいが引き留めに合っている、取締役を辞任したら損害賠償請求をすると言われたなどでお困りの方のご相談を受け付けております。
そこで、本記事では取締役の任期満了による退任、取締役の辞任を中心に解説します。
はじめに
取締役が、取締役としての地位を失う場合は、任期満了による退任、辞任、解任(会社法339条1項)などがあります。
任期満了による退任については、任期を確認することが必須です。非公開会社においては、公開会社と異なる任期を定めることが可能ですので(会社法332条2項)、取締役に就任する時には会社定款により任期を確認しましょう。
また、取締役の辞任は、いつでもすることができますが(民法651条1項)、会社に不利な時期に辞任した場合には、会社から損害賠償請求をされる可能性がありますので、やむを得ない事由があるかどうかの判断が必要になります(民法651条2項、同条同項1号)。
任期満了による退任
(1)原則
取締役の任期は原則として、選任後2年以内に終了する最後の事業年度に関する定時株主総会の終結時までです(会社法332条1項)。
取締役は株主総会決議によって選任される(会社法329条1項)ため、最終事業年度に関する定時株主総会において、再任されない場合は、取締役としての地位を失うことになります。
(2)例外
上述のように、取締役の任期は原則2年(会社法332条1項)ですが、公開会社(会社法2条5号)においては、定款又は株主総会の決議において任期の短縮が可能です。株主は、取締役の任期を1年と短縮することにより、短期的なスパンで取締役としての信任を問うことができるというメリットがあります。他方、取締役としては、任期が短縮されることで継続的なキャリアプランが描けないというデメリットがあると思われます。取締役に就任する際には、任期の確認をすることが必須です。
また、非公開会社(発行株式の全部又一部に譲渡制限を定めている会社)では、定款によって、任期を10年まで伸ばすことが可能です(会社法332条2項)。これは、非公開会社においては、株主が経営を担っている場合も多く、取締役の選任に関し、株主の意向を頻繁に確認することは煩雑であると考えることができます。
このように、取締役の任期については、会社が公開会社なのか非公開会社なのかによって法律の定めが異なっています。そのため、取締役の就任や辞任を検討している方は、会社の定款等を確認することで自身の任期を確認することになります。
取締役の辞任について
はじめに
取締役と会社の関係は、委任契約(会社法330条、民法643条)という法律関係になります。したがって、取締役の辞任は、委任契約の一方的な解除として、民法の委任契約の解除の規定が適用されますので、委任契約の「当事者」である取締役は、いつでも解除(辞任)をすることができます(民法651条1項)。
もっとも、取締役の辞任について、委任契約の規定が適用されることから、相手方の不利な時期に解除した場合は、会社から損害賠償請求をされる可能性がありますので、やむを得ない事由があるかどうかの判断が必要になります(民法651条2項、同条同項1号)。
次に、辞任の方法に関しては口頭でも辞任をすることができるのが建前ですが、辞任届を提出し、書面で証拠を残すことが必要であると考えています。取締役の辞任の意思表示は、委任契約の解除であり方式に定めがないことから、口頭でもよいとされていますが、通常は書面において通知する方法で行います。それは、書面として辞任の意思を間違いなく通知したという記録を残しておくことで、後々のトラブル(辞任の意思表示を会社が受けていないと争われるなど)を防止できるからです。
取締役の辞任と会社に対する損害賠償責任
取締役の辞任について、委任契約の規定が適用されることから、相手方の不利な時期に解除した場合は、会社から損害賠償請求をされる可能性がありますので、やむを得ない事由があるかどうかの判断が必要になります(民法651条2項、同条同項1号)。
ここでは、「不利な時期」と「やむを得ない事由」とは何かを解説します。
・「不利な時期」(民法652条2項1号)
委任の解除をした相手方にとって不利な時期であることをいいます。例えば、取締役が、主導していたプロジェクトがあり、そのプロジェクトを取引先に採用してもらうための重要のプレゼンを控えている前日に、当該取締役が辞任届を提出し、会社が取引先との間でプロジェクトが採用されなかったような場合は、「不利な時期」に該当する可能性があると思われます。 もっとも、辞任が「不利な時期」に行われたかどうかは、取締役の具体的な職務、辞任の時期、後任への引継ぎの有無等の諸事情が考慮された上で判断されるため、ケース・バイ・ケースといえます。
・「やむを得ない事由」(民法652条2項但書)
取締役の職務の継続が困難な事由があることをいいます。例えば、業務多寡により健康を害してしまって業務に耐えられない場合が典型であると思われますが、会社から取締役報酬が未払いになっているなどの事実関係もやむを得ない事由に当たり得るものと考えます。
取締役としての権利義務が残る場合
取締役が辞任することで、法律又は定款で定めた取締役の最低人数に不足が生じることがあります。会社法では、最低人数が欠ける場合には、辞任した取締役であっても、新たに選任された役員が就任するまでの間は、取締役としての権利義務を有する(会社法346条1項)と規定されています(会社法346条1項)。
このような状況の取締役を、「権利義務承継取締役」と呼びます。
もっとも、取締役は辞任を通知したにもかかわらず、取締役としての義務等が残るのでは、取締役は完全には取締役の地位を離れることができません。
辞任した取締役が、権利義務承継取締役として登記が残ってしまうようなケースは、会社に対して早急に次の取締役を選任するように求めることや、仮取締役の選任の申立て(会社法346条2項)等により対応することが求められます。
辞任と退任登記との関係
辞任する場合には、会社との関係では辞任通知(辞任の意思表示)が到達することで効力が生じますが、第三者に対しても、会社の取締役を辞めたことを対抗するためには、辞任を原因とした変更登記を会社にしてもらう必要があります。
会社が、退任登記の手続をしない場合には、以下の方法によることになります。
ア.取締役退任登記手続請求 退任の登記は、会社の代表取締役が、法務局に申請します。しかし、会社が退任登記をしない場合には、会社の取締役としての登記が残り、公示されたままになりますので、裁判所に対して取締役退任登記手続請求を行います。 イ.第三者に自己が取締役ではないことを通知する また、辞任したにもかかわらず取締役の登記が残っている場合には、登記が残存している取締役は、登記を信頼した第三者から、責任追及の訴えをされる可能性があります。このような信頼を与えないために、第三者に対して自己は既に取締役を辞任した旨を通知することも検討すべき内容になります。
関連裁判例について
名古屋高裁判決平20年10月23日判タ1305号171頁
クラブ(飲食店)を経営する会社の代表取締役 が退任した際、会社との委任契約に基づく業務引継義務違反があったなどとして、債務不履行及び民法 651条2項に基づく損害賠償請求がさ れた事案において、実質的にはいわゆる雇われママにすぎず、委任契約が適用されるべき代表取締役であったとは認められないとして責任が否定された事例
このように、会社法上の取締役として選任されていても、その実質が労働契約にすぎないような場合には、委任契約に基づく義務が認められないという裁判例もありますので、会社から任期満了前の不利な時期の辞任を理由として、民法 651条2項に基づく損害賠償請求を受けた場合は、労働者性の検討も必要になると考えます。
飯田橋法律事務所への相談
当事務所は、取締役の辞任や退任に関するご相談につき、初回法律相談を1時間分無料でお受けしております。
初回法律相談では、あなたからお話をお聞きし、ご提供いただいた資料を検討した上で、弁護士費用の見込み、紛争解決手続(示談交渉、民事訴訟等)の選択、紛争解決までの期間、メリットやデメリットなどを、できる限りわかりやすくお伝えします。
弁護士にご相談いただければ、早急に適切な対応をすることができます。取締役の辞任や退任でお困りの方は、お気軽にお問合せください。
ご希望される方は、下記記載のメールアドレスかお電話にてご連絡ください。